化学反応の多くは凝縮系で起こり、その反応は生体分子をはじめ様々な機能性高分子によって広く利用されています。ところが、凝縮系反応が実際にどのように進行し、それが高分子材料の機能発現へとつながっているのかはあまりよく分かっていません。我々は、酵素反応や有機合成反応といった凝縮系反応がどのように進行し、それによって高分子材料が機能を果たす過程を、理論化学・計算化学を用いて計算機の中で再現することで理解することを目指して研究を行っています。 また、これらの知見を生かした分子触媒や機能性高分子材料の設計指針の提案に取り組んでいます。特に、実験系研究者と連携することで、新規分子のデザインことにも挑戦しています。 さらに、これらの計算や解析を可能とするための新規アプローチや、シミュレーションや実験から得られた複雑かつ大量のデータから分子機構の理解や新規分子の設計へとつながる機械学習などのデータサイエンスの手法開発にも取り組んでいます。
凝縮系反応の静的・動的分子機構
化学反応の理解には遷移状態(反応経路上でエネルギーが一番高い点)を明らかにすることが重要ですが、実際の凝縮系反応では多数の分子が存在するため競合する複数の遷移状態が存在します。また、酵素反応をはじめ、分子の遅い動きが見られる場合、それらが化学反応にどのように関与するか理解する必要があります。我々は、量子化学計算と分子シミュレーションを用いて、多数の分子が関与するこのような凝縮系反応の分子機構の解明と、それを分子設計にフィードバックする指針の作成に取り組んでいます。
高分子の立体構造と動的挙動
機能性高分子は、個々の分子が集まり緻密な立体構造をとることで、分子間相互作用を通して機能を発現します。一方で、室温下では分子は揺らいでおり、さらに生体分子ではその構造揺らぎが機能に重要であることが明らかになってきています。 我々は、分子シミュレーションを用いて、生体分子をはじめとした機能性高分子の立体構造とその動的挙動の解明に取り組んでいます。さらに、機能を発現する際に重要となる高分子−高分子相互作用や、表面吸着過程の解明にも取り組んでいます。 そのような動きから機能が効率的に発現する仕組みを理解することで、高分子材料の設計へと展開することを目指しています。
シミュレーション解析のための計算科学手法の開発
分子動力学シミュレーションは化学反応や構造変化のイベントを追跡するための強力な手法ですが、出てきたデータは多数の分子を含み、複雑に動くため、その解析は一筋縄ではいきません。 我々は、このようなデータを、特に動力学の視点から解析し、データに潜む分子機構の解明に取り組んでいます。そのために、計算科学のアプローチを取り入れた新規手法の開発も進めています。
高分子の機能発現の分子機構
機能性高分子の内部でどのように化学反応が起こり、それが機能発現へと結びつくかは多くの系で十分に分かっていません。生体分子ではこれを非常に高い効率で実現するため、その仕組みに興味が持たれています。
このような機能発現の分子機構を理解するには実験グループとの共同研究が不可欠です。我々は、様々な実験グループと密に連携することで、生体分子をはじめとした高分子の機能発現機構の分子レベルでの解明に取り組んでいます。
光異性化反応の非断熱遷移ダイナミクス
光異性化反応は、光エネルギーを力学的エネルギーに素早く転換できる重要な反応ですが、異なる電子状態間の非断熱遷移を伴うため、ダイナミクスの理解が必須となります。我々は、このような反応ダイナミクスを調べる新たな第一原理分子動力学法を開発し、ダイナミクスの解明に取り組んでいます。さらに、実験で測定可能なスペクトルを計算から予測し、反応機構を実験的に検証を可能とすることで、詳細な分子機構の解明へとつなげています。